PBP2019 #5 走行編 Saint-Nicolas-du-Pélemまで(444.6km〜489.6km)
Saint-Nicolas-du-Pélemまで(444.6km〜489.6km)
2015年の経験から、8月のフランスの夜は寒く一桁台まで気温がさがることがわかっていました。かなり疲労が蓄積しているのでこの後はペースは落ちるでしょう。体温があがらない時に気温が急激に低下すると、寒さで動けなくなる可能性があります。
Loudéacではジャージを着替え、アームウォーマーの上からモンベルのジオラインEXP(極地向けのインナー)を着て夜の気温の低下に備えます。
20:30頃、Loudéacを出発。仮眠ポイントのSaint-Nicolas-du-Pélem(サン=ニコラ=デュ=ペルム)を目指します。走り出すとすぐに日没。ナイトライドに突入です。
1000kmブルベや1200kmブルベは何度も走っていますが、20時間程度走った後で2〜3時間程度の仮眠を入れるのがいつものパターンです。連続で走ったことがあるのは最大でも24時間、400km程度でした。
17:30に出発しているので、この時既にスタートから27時間が経過しています。仮眠ポイントまではわずかに45kmほどですが、27時間寝ずに走り続ける負担は大きくこれまでにない強烈な疲労感が襲ってきます。体が重い。
あと少しだけ体力が持ってくれれば眠ることができる。自分に言い聞かせながら疲れ切った体で暗闇の中をどうにか前に進みます。
幸いトラブルもなく、23時頃にSaint-Nicolas-du-Pélemに到着。
4時間の貯金は維持していますが、マージンが全く広がっていないのでこの区間は15km/h以下でしか走れなかったようです。
寒くなるタイミングで防寒着を着たのは正解でしたが、極地向けインナーはちょっとやりすぎで、暑かった。
仮眠。そして…
Loudéacを出発した時は眠くなかったのですが、この時は疲れ切っていて、ほどよい眠気もありました。これならぐっすり眠れそうです。計算通りです。
睡眠時間を少しでも長くとりたいので、Villaines-la-Juhelの時と同じく到着直後にすぐ食堂の床で眠ることに。受付を済ませてすぐに食堂に向かいます。テーブルと椅子に挟まれた食堂の床スペースが理想のベッドに見える。
時刻は23時過ぎ。仮想クローズ時間は午前3時なので、2時半に起きて3時にスタートするなら3時間は眠れそうです。
アラームで周囲に迷惑をかけたくなかったのでイヤホンを装備し、スマホのタイマーをセット。アイマスクをしてレインジャケットを掛け布団にして、万全の体制で仮眠へGO。疲れているのですぐに眠りに落ちました。
・・・・・
・・・・・
「むっしゅー、むっしゅー」
折角いい感じに眠れたのに、すぐに運営スタッフに足をゆすられて起こされてしまいました。
「こんなところで寝ないで、仮眠所で寝てください」
と言っているようです。
食堂は仮眠する人だらけなのに自分だけが起こされたのは、きっといびきがうるさかったからなのでしょう。
まあ仕方ない。時刻は0時。まだ十分な時間があるし、移動しよう。
荷物をとって寝ぼけまなこで運営スタッフに連れられて仮眠所へ向かいます。寒い。仮眠所は現金でいくらかのユーロを払うシステムでした。現金を払おうとしたところ財布にしていたRaphaのエッセンシャルケースが見当たらない。
・・・財布がない!!!!
ルデアックの仮眠をパスしてサンニコラ・デュ・ペルムに着いたのはいいのだけど、仮眠してたら財布無くなってる… (@ Saint-Nicolas-du-Pélem in Brittany) https://t.co/x8Nx3AWt4V
— さかき (@sakaki041) August 19, 2019
慌てて食堂に戻って探したのですが、財布は見つかりませんでした。仮眠している間に盗難にあったとしか思えません。しばらくは財布を探したり、スタッフに聞いたりと駆け回りましたがついに財布を取り戻すことはできませんでした。
疲れ切っていたので記憶が曖昧ですが、寝る時に財布を床に置いたのかもしれません。アイマスクとイヤホンを付け、いびきをかいて眠る自分は盗む側からすれば格好の獲物だったのでしょう。
…財布がない。
途方に暮れていたところ、運営スタッフが仮眠所とは別の建物に連れていってくれました。
「トイレもあるし快適だろ。ここで朝まで寝て行っていいよ。」
外も屋内も真っ暗だったのでわかりづらいですが体育館のようなかなり広い場所です。床には仮眠用のマットが多数敷いてありますが誰も寝ていません。この後Openする予定の施設なのか、看板がなかったのでDNFや負傷者用の仮眠スペースだったのかもしれません。
深夜1時。電気もついていない真っ暗な広い仮眠室の中で、ぽつんと自分一人だけ。
混乱しながらもとりあえず眠ろうと試みましたが、不安感で眠れない。いや、そもそも寝ている場合ではない。
この後どうすればいいのか、知人に連絡しながら頭を整理します。
<この時の状況>
・パリから489.6km離れた村で、現金をすべて損失
・現在午前1時。仮想クローズ時間まで残り2時間
・財布の中に入っていたもの
・250ユーロ
・クレジットカード(VISA)
・ホテルのルームキー
・スーツケースのキー
・首から下げていたので盗られなかったもの
・パスポート
・ブルベカード
・クレジットカード(AMEX)
まずはクレジットカードの停止が最優先だと判断してカードを止めました。ThreeのSIMを挿していたのでプリペイドの電話番号があったのが幸いして数分で停止に成功。セゾンカードの日本人オペレーターが対応してくれました。仮にレンタルのモバイルルーターを使っていたら電話ができずに苦労していたでしょう。
現金はすべて失ったものの、首から下げていたパスポートとブルベカード、それに予備のクレジットカードは手元に残っていました。パスポートを盗られなくて本当によかった。
まだ予備のアメリカン・エキスプレスのカードがあります。これまでは現金を使用していましたが、食堂を含むほとんどの場所でカード決済ができるようでした。カードさえあればなんとかなるかもしれない。ここは海外に強いアメリカンエクスプレスの真価を発揮する時です。
ところが、食堂のレジで使ってみるとアメリカンエクスプレスは使用できませんでした。何度試してもレジでエラーになります。財布を盗まれた言うとレジの人に同情され、
「お代はいいから食べていきなさい」
と言われ、無償で食事をとることができました。ありがたい。でも不安感でいっぱいです。
食事をとりながら調べてみると、なんとAMEXはフランスではほとんど使用できないようです。キャッシングも不可。ただ一つ、ネットで予約できるTGVではAMEXが使えることがわかりました。(夜中にも関わらず知人が調べてくれました)
高い年会費を払っているのにいざというときにAMEXがこれほど頼りにならないとはなんということか。財布を盗んだ犯人よりも、AMEXに腹が立ちました。何かに腹を立てないとやりきれない気分でもありました。
DNF判断
現金をすべて失い、どうやら唯一残っているクレジットカードはほぼ使い物にならないようです。
ルデアックで追加したばかりなので補給食はありますが、補給食はあくまでも食事の間のつなぎです。補給食だけで復路のルデアックに行くにはカロリー量が少なすぎる。
このまま続けるか、DNFするかを考えなければなりません。
<続ける場合>
・手持ちの補給食で行けるところまで行く
・アメリカンエクスプレスカードが使えるお店を頑張って探す
・食堂で、また無償でもらえないか交渉する
・誰かにお金を借りる
<DNFする場合>
・DNF向けの輸送手段を利用する。(無償の移動手段が存在するのか不明。大規模PCであるLoudéacまで戻るとありそう)
・最寄りのTGVの駅まで自走する。
パリから走ること489.6km。ここまで来たのだからなんとか続けたい。なんとかならないかと考えましたが、継続は難しいと判断せざるを得ませんでした。PCごとに食事とお金の無心を求めながら走り続ける、などということが現実的だとは思えません。
しかしDNFするとしてもSaint-Nicolas-du-Pélemには鉄道は通っていないしお金もない。最寄りのTGVの駅はGunigamp(35km)とSaint-Brieuc(42km)のようです。この距離なら問題なく行けるでしょう。
しかしコンディションに問題がないのにここまできて引き返すのはあまりにも悲しすぎる。せめてBrestの街を見たい。Brestまでは残り120kmほどでした。
どうしたものか迷っていたところ、たまたま同じ場所にいた日本人の方が親切にも50ユーロを貸してくださりました。(Nさん、本当にありがとうございました)。
Brest・Paris間の鉄道料金は28ユーロ。もしTGVでもAMEXが使えないとしてもこれだけあればパリに帰ることができます。
Brestまで行って、そこでDNFすることを決めました。
係の方に対応検討してもらっている間に時間が経ち過ぎてしまった。帰られるのかどうかもあやしい。とりあえずDNF確定。
— さかき (@sakaki041) August 20, 2019
AM3:51のツイート。
<区間結果>
・【通過チェック】Saint-Nicolas-du-Pélem(489.6km)
到着予定時刻 0:00 →実際 23:00
予定通りに到着。仮想クローズ時間である午前3時にリスタートする予定でしたが、トラブルがあったために実際に出発したのは4時頃でした。
結局、ここでも30分程度しか眠ることはできませんでした。